【頭がない男-ダグラスハーディングの人生と哲学】

ハーディングの本は、何冊か読んだことがある。彼は近代のノンデュアリティ(非二元)の中でも特に実践を重んじた人であり、いくつかの真理を悟るための実験を考案した人物である。この本は、彼の人生の伝記+思想 を絵本形式で分かりやすいビジュアルで説明しているものである。

ちなみに、いくつかの実験はyoutubeで見られるようになっている。

https://www.youtube.com/watch?v=98CindnEs58

この動画も含め結構分かりやすいといえば分かりやすいのだが、動画を見ても、本を見てもいまいちその真意が理解できなかった。彼の実験で最も有名なのは通称「指指し実験」で、自分に向かって指をさすと、実はその刺した先には何も対象が見えない=空が広がっている ということをきっかけに、「自己の空性」を体感するものである。私はこの実験にトライする度に「とはいってもこれはあくまで視界に限定された世界ではないか」「目が見えなかったらこの実験は効果がないから、本質ではないのではないか」ということをごちゃごちゃと思っていた。

今回、この「頭がない男」を読み、視覚的にとらえることで少し彼の言いたいことが分かるような気がした。ただ、まだ正直腑に落ちきっていない。唯一腑に落ちたのは、「どこまでが自分か」という問いに関する彼の答えである。例えば、外部に何か液体があったとして、その液体を体に取り込むと、それは我々の一部になるわけである。また、例えば木か何かが手に刺さって、手と木が一体になれば、もはや木もその一部である。「いや、木は別のものでしょ、自分の体ではないから」という反論もあり得るが、例えば髪の毛が体から抜け落ち、それが床に落ちたらそれはもう「自分」ではないはずである。そもそも我々の体自身が、食べ物・飲み物・空気などによって維持されているものであり、「外部」のものなしでは存在できないものである。そうすると、本当にどこまでが自分なのか という問いを思料するのは中々難しい。これはケンウィルバーが「無境界」で語っているようなことにも近いかもしれないが、「自己」と「他社」の境界は非常に曖昧である。ノンデュアリティの一般的な主題を、説得力のある言説で捉えられていて非常に感心した次第である。